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東京地方裁判所 昭和41年(行ウ)79号の1 判決 1971年4月27日

原告 株式会社石黒建設

被告 浅草税務署長

訴訟代理人 武内光治 外六名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

(原告)

被告が原告に対し昭和三九年六月一五日付でした原告の昭和三六年八月二九日から昭和三七年三月三一日までの事業年度の法人税更正処分のうち審査裁決によつて維持された部分は確定申告額をこえる限度において取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

(被告)

主文と同旨の判決

第二原告の請求原因

原告は、建設工事の請負を業とする株式会社であるが、昭和三六年八月二九日から昭和三七年三月三一日までの事業年度の法人税につき課税標準五三万三、九九八円、税額一六万二、六八〇円と確定申告したところ、被告は、原告の申告に係る課税標準が失当であると認め、推計課税の方法によつて、昭和三九年六月一五日付で課税標準を六四九万六、二五五円、税額を二三五万四、一〇一〇円と更正するとともに、重加算税六五万七、三〇〇円の賦課決定をなしその後、東京国税局長の審査裁決によつて、課税標準は四三〇万一、二〇〇円、税額は一五二万一五〇円に減額され、重加算税の賦課決定は取り消された。

しかし、被告の挙示する別紙一、記載の石倉健二名義の普通預金のうち1の合計三一万四、九〇〇円、2の三〇万円、5の五〇万円は、いずれも、石黒宇一郎個人の工事収入金、3の合計三万二、〇〇〇円のうち三万円は、石黒庸司の大学入学祝の自己受小切手を現金にかえてやつたもの、残余の二、〇〇〇円は、石黒宇一郎の紹介謝礼金、4の四六万六〇〇円は、原告会社振出しの手形を石黒宇一郎が現金化したもの、6の五万円は、同人が振出人から依頼されて小切手を現金と交換してやつたものであり、別紙二記載の近藤源作名義の当座預金のうち1の五〇万円は、石黒宇一郎個人の工事収入金、2の一〇万円は、振出人の依頼で割引いたもの、3の三八万九、三〇〇円は、原告会社設立前に石黒宇一郎個人の施行した工事代金であり、いずれも、原告会社の工事収入金とは無関係であるから、これらの別途預金がある故をもつて、実額課税が不可能であると速断して推計課税によつたことは、違法たるを免かれないばかりでなく、被告の採用した総利益率は、浅草税務署管内の建築請負会社四〇社のうち別紙三記載のAないしGの七社の平均工事収入によつて算定したというが、そもそも、同署管内に同業者が何社存在するかは不明であり、四〇社のうちから七社を選定した基準もつまびらかでなく、右七社について検討してみても、その資本金の額、設備規模、事業年数、売上高、工事原価等いずれの点においても、原告会社とはもとより、七社相互間においてすら、類似性が存在していないのであるから、その推計方法は、全く合理性を欠くものというべきである。

第三被告の答弁

原告主張の請求原因事実のうち、別紙一及び二の別途預金の真実の権利者が原告主張のとおりであることは不知、被告の採用した総利益率が合理的でないことは否認、その余の主張事実はすべて認める。

被告が推計課税の方法によらざるを得なかつたのは、原告会社の金銭出納帳には日々の残高の計上がなく、一件別の工事台帳も備え付けられていない状態で、帳簿の記帳のみによつて実額課税を行なうことが不可能の状態であり、さらに、被告の調査によつて、別紙一、二記載の各架空名義の預金口座があり、それに工事収入金の一部の入金されている事実が判明したが、そのうちの幾何が原告会社のものであり、幾何が原告代表者石黒源一郎個人のものであるかを確認することが困難であつたので、原告会社の決

算報告書に計上されている工事原価二、六一五万四、四八九円をそのまま信用することとし、一方、原告会社を所轄する浅草税務署管内の建設工事請負会社四〇社のうちから、官庁からの注文がなく、主として浅草税務署管内で仕事をしていること、鉄骨工事と木造工事のいずれをも手掛ける会社であること等の諸条件を基準として、その規模、業態等において原告会社と類似する別紙三記載のAないしGの七社を選定し、これら会社の平均工事収入総利益率(売上差益率)を〇・一七七と算出し、前記工事原価二、六一五万四、四八九円に右総利益率〇・一七七を適用して工事収入金額三、四〇九万二、五一三円を求め、これから、原告会社が決算報告書に計上している工事原価二、六一五万四、四八九円に、原告会社がその代表者個人のために行なつている工事の係争年度に係る原価分一九〇万三、六五〇円を加算した二、八〇五万八、一三九円を控除して工事収入総利益(売上差益)を出したうえで、これに営業費、営業外収益、営業外費用を加減して、原告会社の課税所得金額を算定した。

第四証拠関係<省略>

理由

原告は、建記工事の請負を業とする株式会社であるが、係争事業年度の法人税につきその主張のごとき確定申告をしたところ、被告が推計課税の方法により、本件更正処分を行なつたことは、当事者間に争いがない。

そこで、まず、被告が推計課税の方法によつたことの適否について判断するのに<証拠省略>によれば、原告会社は、その代表者の父石黒宇一郎が大正一二年のころから石黒建設工業所の商いで営んでいた個人の建設業を昭和三六年八月二九日法人組織に改め、宇一郎の有していた完成工事分の債権債務一切を承継することによつて設立されたが、原告会社の承継した分と宇一郎個人に残した分との区別は、必ずしも、具体的に明確にされていなかつたばかりでなく、原告会社には一件別の工事台帳がなく、金銭出納帳の記載すら不十分であり、さらに、被告の調査によつて、帳簿に記載されていない原告会社の取引先から原告会社に宛て振り出された小切手が、別紙一、二記載のとおり、平和相互銀行浅草支店の石倉健二なる故人名義の普通預金と荒川信用金庫浅草支店の近藤源作なる故人名義の当座預金の各口座に入金されており、いずれの預金口座も原告会社のものであることが判明したが、前記のごとき事情から、右小切手の中には宇一郎個人の施行に係る工事の代金も含まれているけれど、その金額を正確に確定することが困難であつたことを認めることができ、右認定に反する前掲各<証拠省略>と対比するとたやすく措信できず、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠がない。しかして、以上認定の諸事実によれば、被告が原告会社の係争事業年度の法人税につき実額課税によることなく推計課税の方法によつたことは、相当であつて、原告主張のごとき瑕疵はないものというべきである。

次に、その推計方法が合理的であつたかどうかについて判断するに、<証拠省略>によれば、被告の採用した総利益率は、被告主張のような思考過程を経て作成されたものであることを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はないので、一応合理的なものというべきである。もつとも、被告の選定した別紙三記載の七仕の一つ一つにつき仔細に検討すれば、その資本金の額、設備規模、事業年数、売上高、工事原価等いずれの点においても、原告会社と全く同一であるといえないのはもとより、その間に相当の開きがあることは、否定し得ないところである。しかし、原告は、ただ単に右の相異点をあげつらうにとどまり、その総利益率の合理性を上回る適正な総利益率の主張、立証をしていない以上、法人税法が実額課税の方法によることができない場合には推計課税を行ない得ることとしている法意にかんがみ、被告が本件において前記総利益率を適用したことをもつて違法と断ずることは、当らないものというべきである。

よつて、本件更正処分には原告主張のごとき瑕疵がなく、原告の請求は、失当であるので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部吉隆 渡辺昭 竹田穣)

(別紙一)石倉健二名義の普通預金(平和相互銀行浅草支店)<省略>

(別紙二)近藤源作名義の当座預金(荒川信用金庫浅草支店)<省略>

(別紙三)浅草税務署管内の原告と同種同規模法人の選定<省略>

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